点検・保守

キュービクルの避雷器(SPD)とは|仕組みと設置基準

更新: 2026-07-17中村 誠一
キュービクルの避雷器(SPD)とは|仕組みと設置基準

避雷器は、雷の侵入を止める機器ではなく、電線から入ってきたサージ電圧を大地へ逃がして変圧器や高圧機器の絶縁破壊を防ぐ装置です。
現場で点検に同行すると、「避雷針があるのに避雷器も要るのか」と何度も聞かれますが、直撃雷を受け止める避雷針と、電路側の過電圧を処理する避雷器は役割がまったく違います。
高圧受電設備では、電気設備技術基準の解釈で受電電力500kW以上の引込口に設置が義務付けられており、500kW未満でも多雷地区なら実質的に入れておくのが現実的です。
LAや避雷器と書かれた点検報告書も、絶縁抵抗の前年差を見れば劣化の気配をつかめますし、設置から10年を超えた機器は交換の目安として意識しておきたいところです。
しかも、劣化を放置した避雷器やPASは、碍子の絶縁破壊から短絡へ進み、周辺一帯の停電を招く波及事故につながりかねません。
数万円の部品で数百万円規模の損失を抑える構図だと捉えると、点検と更新の判断は先送りせずに進める価値が見えてくるでしょう。

避雷器(SPD・アレスタ)とは|雷サージから設備を守る仕組み

避雷器は、雷サージが電路へ入り込んだ瞬間だけ働き、それ以外の時間は回路にほとんど影響を与えない装置です。
高圧側では避雷器、低圧側ではSPDと呼ぶことが多く、アレスタという呼び名も含めて機能は同じだと整理しておくと、カタログを読んだときの混乱が減ります。
建物に立派な避雷針があっても、それだけでは引込線から入るサージは止められません。
実際の現場では、夏の雷雨の翌朝に変圧器が絶縁破壊して停電したのに、キュービクル側へ避雷器が付いていなかった、という状況を見たことがあります。
担当者は対策済みと思っていたのですが、避雷針と避雷器を同じものとして扱っていたのが落とし穴でした。

避雷器・SPD・アレスタは何が違うのか

避雷器・SPD・アレスタは、呼び名が違うだけで役目は同じです。
高圧受電設備の資料では避雷器、低圧配電の資料ではSPDと書かれやすく、同じ保護素子なのに別物のように見えてしまいます。
ここを最初にそろえておくと、設計図・保守記録・カタログの表記が食い違って見えても、実態はひとつの装置だと理解しやすくなります。

現場では名称の違いよりも、「どの電路を守るのか」が本質です。
高圧引込口、変圧器一次側、分電盤、通信線といった経路ごとに役割を分けて考えないと、設備全体の保護になりません。
実際、建物の外側に避雷針があっても、電気室の中までサージは回り込むのです。

通常時は絶縁物、サージ時だけ電流を流す非線形素子

避雷器の中核は非線形素子で、通常運転中は絶縁物に近い高抵抗を保ちます。
つまり、常時つなぎっぱなしでも電流はほとんど流れず、電気代に影響しません。
この性質があるからこそ、普段は設備の邪魔をせず、いざというときだけ前面に出てくる保護装置として使えるのです。

雷サージで過電圧の波高値が一定値を超えると、素子は一気に低抵抗へ転じ、サージ電流を接地側へ逃がします。
機器が受ける電圧を耐電圧以下に抑え込めれば、変圧器や高圧機器の絶縁破壊を防げます。
放電後は系統を正常な状態に戻すことも求められるため、単に「逃がす」だけではなく、すぐ復帰できることが実務上の価値になります。

NOTE

避雷器を新設した施設で翌シーズンの落雷後に確認したところ、本体の外観に放電痕が残っていましたが、変圧器も低圧機器も無傷でした。
現物を見ると、避雷器が身代わりになって働いたことがはっきりわかります。

避雷針との違い|受け止める機器と逃がす機器

避雷針と避雷器は、似た名前でも役割がまったく違います。
避雷針は建物への直撃雷を受け止めて大地へ導く設備で、雷が建物そのものに落ちる被害を減らすためのものです。
これに対して避雷器は、電線を伝って入ってくるサージを接地側へ逃がす機器であり、両者は代替関係にありません。

被害の大半は直撃雷ではなく誘導雷です。
近くに落ちた雷が高圧引込線、低圧配線、通信線に電圧を誘起し、複数経路から回り込むため、建物の外と中の両方で対策が必要になります。
避雷器がなければ、引込線から侵入したサージがそのままキュービクル内部へ到達し、絶縁破壊へつながる危険が高まります。
だから、受け止める設備と逃がす設備を分けて考えることが出発点になるのです。

避雷器の設置基準|義務になる条件と設置位置

高圧架空電線路から受電する需要場所では、受電電力500kW以上の引込口に避雷器を施設する義務があります。
まず確認すべきは設備の感覚ではなく、電力会社との契約書にある受電電力です。
500kW未満なら不要と切り分けるのは早計で、多雷地区では法令の外でも保護を厚くする判断が現実的になります。

受電電力500kW以上は設置義務

設置基準の軸は明快で、高圧架空電線路から受電する需要場所のうち、受電電力500kW以上の引込口が対象です。
避雷器は雷サージなどの過渡的な過電圧を先に受け流し、機器の絶縁を守る役目を持つため、引込口に近いほど効果が高くなります。
受電点で侵入を止める発想が基本であり、後段の機器だけを強化しても守り切れません。

500kW未満でも多雷地区では設置すべき理由

450kWで義務対象外だった工場を見たことがありますが、過去5年の周辺の雷害履歴を並べると、避雷器なしで運用するほうが危うい状況でした。
法令上は義務でなくても、雷の多い地域では停電で止まる生産損失と設備更新費の両方を考える必要があります。
義務の有無で白黒を付けるのではなく、被害を起こさないために先回りするかどうかの判断になるでしょう。

避雷器は、架空電線路から供給を受ける引込口と、その近接箇所に置くのが最も効果的です。
近年はPAS(高圧気中負荷開閉器)に避雷器を内蔵したLA付きPASが標準的で、柱上や敷地入口でサージを受け止められる点が強みです。
キュービクル本体まで大きなサージを届かせにくくするので、更新計画でもおすすめです。

設置位置|PAS内蔵型とキュービクル内蔵型

構内配電線を持つ広い事業所では、100〜500mの間隔で避雷器を設置し、主遮断器・変圧器にも設けて、段階的にサージを低減する考え方が有効です。
屋内の低圧系まで一気に雷エネルギーを通さず、途中で少しずつ逃がすため、保護協調を組みやすくなります。
設備の規模が大きいほど、1か所だけの対策では守りが薄くなるのです。

効果を左右するのは接地で、避雷器はA種接地工事(接地抵抗10Ω以下)で施工し、接地線は最短距離で引き回します。
実際に、避雷器付きなのに雷害が起きた現場では、接地線が余長を巻いて長々と回されていました。
最短距離で接続し直して接地抵抗を測り直すと、ようやく制限電圧が素直に働く状態になりました。
配線の長さが増えるほど配線自体のインピーダンスで電圧が持ち上がるため、機器だけでなく施工の詰めまで見ておくのがおすすめです。

避雷器の種類と選び方|ギャップレス酸化亜鉛形が主流になった理由

避雷器は、旧式のギャップ付きから現在主流の酸化亜鉛形ギャップレスへ移ることで、更新時の選定基準がかなり整理しやすくなりました。
直列ギャップで放電を始める方式は仕組みが分かりやすい反面、放電後に続流を断つ必要があり、多重雷では負担が重くなります。
これに対してギャップレスは素子の非線形性で電圧を抑え、続流が流れないため、温度上昇を抑えながら長寿命を狙えるのです。
更新では型式の古さよりも、無続流であることと定格の合致を優先して見ます。

ギャップ付きとギャップレスの違い

20年以上前に設置されたギャップ付き避雷器が残っていた施設を更新したとき、設備台帳の型式を追わなければ旧式が残存していることに気づけませんでした。
現場で見る外観は似ていても、中身の役割は大きく違います。
ギャップ付きは直列ギャップで放電開始点を作り、雷インパルスを受けたあとに電源側から流れ続ける電流を遮断する必要があります。
だからこそ、多重雷が続く場面では動作責務が厳しくなりやすく、保守側も交換履歴を丁寧に追う必要があるのです。

酸化亜鉛形ギャップレス避雷器は、素子そのものの非線形性が急峻で、直列ギャップを置かなくても動作します。
放電後に続流が流れないため、繰り返しの雷に対して余裕が生まれ、温度上昇も少なく済みます。
更新時に旧式から置き換えると、同じ設置スペースでも性能と寿命の両面で有利になりやすいでしょう。
現場では「まだ使えるか」より「これからの雷害に耐えられるか」で考えるのがおすすめです。

定格電圧・公称放電電流の読み方

6.6kV高圧受電設備では、定格電圧8.4kV・公称放電電流2500Aが標準的な選定になります。
定格電圧は系統の常時電圧より高く設定され、平常運転で避雷器が不要に動作しないよう余裕を持たせるための値です。
ここを低く見積もると、雷が来ていないのに動作しやすくなり、余寿命を削ってしまいます。
逆に高すぎれば保護性能との釣り合いが崩れるため、受電電圧との整合が選定の起点になります。

雷害の多い地域では、公称放電電流5000A品を選定します。
実務では過去の被害履歴と周辺の落雷密度が判断材料になり、工場で2500A品が繰り返し損傷していた現場を5000A品へ切り替えたところ、その後のシーズンは損傷が止まりました。
価格差だけを見れば迷う場面もありますが、設備被害1回のコストと比べれば小さいことが多いはずです。
選定を一段上げる判断は、結果として保守負担を減らします。

制限電圧と絶縁協調の考え方

制限電圧は、放電中に避雷器の端子間に現れる電圧です。
この値が低いほど被保護機器の絶縁を守りやすく、変圧器や遮断器の弱い部分に過大電圧を残しにくくなります。
絶縁協調とは、避雷器の制限電圧が機器の耐電圧を下回るように組み合わせる考え方で、単体性能ではなく設備全体の保護設計を整える発想です。
避雷器だけを強くしても、保護対象の耐電圧を超えてしまえば意味がありません。

更新時は旧式のギャップ付きにこだわらず、酸化亜鉛形へ置き換えるのが基本方針になります。
同型交換は安心感があるように見えても、無続流の利点や長寿命を取り逃がしやすいからです。
制限電圧が十分に低く、定格電圧と公称放電電流が系統条件に合っていれば、設備側の余裕は大きくなります。
おすすめは、受電電圧、雷害の頻度、保護機器の耐電圧を並べて見ながら決めることです。

高圧避雷器と低圧SPDの違い|クラスI・II・IIIの使い分け

高圧の避雷器(LA)は6.6kV側の受電機器を守る装置で、低圧配線へ回り込むサージまで受け止める役割ではありません。
実際、高圧側にLAが入っているのに制御盤とサーバが壊れた事業所を調べると、低圧側にSPDがなく、変圧器を回り込んだサージがそのまま機器へ到達していました。
高圧と低圧は守る場所が違うので、代替関係にはならないのです。

高圧LAでは低圧機器を守りきれない

LAの働きは、雷サージを高圧側で大地へ逃がして受電設備の絶縁破壊を避けることにあります。
ところが、低圧側には変圧器を経由したサージや、配線に誘起された過電圧が残ります。
パソコン、制御盤、空調の制御基板のような電子機器はこの領域に弱く、受電設備が無事でも停電や故障は起こり得ます。
だからこそ、高圧LAがあるから安心、とは考えないほうがよいでしょう。

クラスI・II・IIIの適用箇所

低圧側の保護を担うのがSPDです。
クラスIは直撃雷の分流が想定される電源引込口、クラスIIは分電盤など誘導雷が侵入する箇所、クラスIIIは末端機器の近くで使い、役割を分けて配置します。
ここで押さえたいのは、クラスの数字が性能の優劣ではないことです。
試験条件の違いを表しているだけなので、上位・下位と読み替えると選定を誤ります。
設置場所で選ぶ、これが基本になります。

NOTE

分電盤にクラスIIのSPDを増設した施設では、その後の雷シーズンに空調の制御基板の故障が止まりました。
高圧側の対策だけでは残っていた侵入経路が、低圧側でようやく断たれた形です。

多段防護の組み方

実務では、高圧LA・引込口のクラスI・分電盤のクラスIIを組み合わせた多段防護が基本形になります。
大きなサージを高圧側で受け、低圧の入り口でさらに削り、最後に盤内で機器が耐えられる水準まで落とし込む考え方です。
接地線もここで効きます。
電源用SPDの接地線はクラスIで14mm²、クラスIIで5.5mm²を目安にし、接地端子まで最短距離で配線します。
配線が長く曲がりくねるほど効果は落ちるため、機器を選ぶのと同じくらい施工の詰めが結果を左右します。

避雷器の点検と交換|劣化の見方と更新の判断基準

避雷器の点検は、外観確認と絶縁抵抗測定を軸に進めます。
碍子部分のひび割れや汚損、放電痕、端子部の緩みや変色を見つけたら、内部劣化も疑う流れです。
しかも絶縁抵抗は単年の数値だけでは読めません。
前年の測定値と比べて著しい低下がないかを追うことで、報告書の数字が点検記録ではなく劣化の履歴に変わります。

点検で確認する項目|外観と絶縁抵抗

点検報告書でまず見るべきは、外観の異常と絶縁抵抗の推移です。
避雷器は雷サージを受けるたびに素子が少しずつ傷む消耗品なので、落雷が多かったシーズンの後は、見た目が無事でも数値の変化に目を向ける必要があります。
実際、絶縁抵抗が3年連続で下がり続けていた施設では、数値をグラフにして管理者へ示したことで、雷シーズン前の更新を決めてもらえました。
数値を並べると、劣化が「気のせい」ではなく、進行中の事実だと伝わりやすくなります。

交換の目安は設置から10年

設置から10年以上経過した避雷器は、絶縁能力の低下が進んでいる可能性が高く、酸化亜鉛形ギャップレス避雷器への交換が推奨されます。
ここでの判断は、故障してから直すかどうかではありません。
期限で入れ替える機器として扱うのが実務的で、更新を先送りするほど雷サージを受けた後の余力が読みにくくなります。
キュービクル本体の更新目安が8〜15年程度なので、避雷器の更新も本体更新やPAS交換のタイミングに合わせると、停電回数と工事費を抑えやすいでしょう。
まとめて計画するほうが。

放置した場合の波及事故リスク

更新を遅らせた損失は、避雷器単体の交換費だけでは済みません。
誘導雷でPASの碍子が絶縁破壊し、雨水浸入によって時間差で短絡に至り、波及事故になった事例があります。
現場では、数万円の部品の更新判断を先送りした結果、落雷でPASを損傷し、緊急工事と操業停止で桁違いのコストに膨らみました。
周辺一帯を停電させれば、賠償と信用の問題まで背負うことになるため、早めに点検結果を見直してみてください。

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中村 誠一

大手ビル管理会社で12年間、商業ビル・マンションの電気設備管理を担当。キュービクルの点検・更新計画の策定を200件以上手がける。